君のとなりで
エレベーターに乗り込み、ボタンを七階に押す。

扉を開けると、柵に寄りかかっている小さな影が見えた。

「実結。」

名前をよんで近づこうとすると、実結は両手で鞄を抱えて逃げるように走り出した。

が、少しだけ俺が実結の腕をつかむほうが早かった。

「なんで逃げんの?」

そして気がついた。

実結の目は赤く腫れ上がり、頬には涙の後。

「何があった?」

小さく震えながら俯いたままの実結。

「颯…」

なんで泣いているんだ?

「言わなきゃわかんねえだろ。」

少し強めの口調になってしまった。

「…っ…恐かった…」

そう言うと俺の胸に抱きついてきた。

小さな背中に腕を回す。

「何が恐かったんだ?」

「…怒らない?」

まだ少し涙で濡れた目で見つめてくる。

「怒るようなことなの?」

本当に何があったんだ?

すると実結は観念したように小さな声で言った。

「キスされそうになった…」



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