君のとなりで
「行けるわけないでしょ。ほら。」

都築君が渡してくれたタオル。

「でも…」

「いいから。」

タオルからは石鹸のいい香りがして、少しだけ心が落ち着いた気がした。


その日は都築君がもう帰りな、と言ってくれたのでお言葉に甘えて帰ることにした。

そしたらまた、マンションのエレベーターの前で今一番会いたくない人と会っちゃった。

颯と会いたくないなんて思ったのは初めてだった。

いつだって少し前まで会っていてもすぐに会いたくなったのに。

バイバイしたあと、寂しくてまたすぐに会いたいって思うくらいだったのに。

颯に追い付かれて、手を掴まれたとき、あたしのなかでなにかがきれた。

こんなの、可笑しいもん。

もう、あたし本当に颯のこと全然わからない。

何がしたいのか、何を思ってるのか。

17年間ずっとそばにいて、なのにわからない。

付き合ってからいっぱい見た、初めての表情。

顔を赤くさせたり、照れたり、苦しそうな顔だって見た。

全部全部、大好きだった。

自分のなかでは区切りをつけたつもりだったのに、全然ついてなかった。


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