君のとなりで
昨日一緒に帰ったばかりなのに、こんなにも会いたくて。

こんなことで遠距離なんてやっていけるのか?

俺は。

そんなことを考えつつ、玄関を出る。

冷えた空気が体をさした。

歩いて数歩のドアの前に立ち、チャイムを鳴らした。

「はーい、あれ、颯君!」

出てきたのは、エプロンをつけて甘い香りを漂わせる日菜さん。

「こんにちは、あの、実結は?」

すると日菜さんは考える仕草をして、手をうった。

「あの子朝早くからどこか行っちゃったのよ!珍しいでしょう?あたしもどこにいるのか分からないし、てっきり颯君といるんだと思ってたわ。」

どこに行ったかわかんないって…

さすが、こういう天然ぽくてフワフワしてるところ、見事に実結に受け継がれてる。

「今ね、ちょっと遅いけどバレンタインに廉と隼人君に贈ろうと思ってチョコクッキー焼いてたの、良かったら食べていって!」

日菜さんが俺の腕を引っ張った。

こういう無邪気なところも実結に似てる。

そんなところに廉さんも落ちたのかな。

なんとなくわからなくもない。

あたたかいリビングに通され、ソファに座らさせる。

一回キッチンに戻ると日菜さんは湯気の立つカップを2つと焼きあがったばかりのクッキーをお盆に乗せてやってきた。

「どうぞ、召し上がれ。」

俺の前に紅茶のはいったカップを置きながら笑う。
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