君のとなりで
遠くから聞こえる賑やかな音から遠ざかり、二人きりになった夜道。

サンダルに躓きそうになった実結を支えて、それからそのまま実結の手を握った。

柔くて、いつか繋いだ時よりずっと小さく感じた。

女の子の手だなって思った。

あの時、この小さな手を離したくないって感じたんだ。

「颯っ!」

聞き慣れた、心地良い声がして、振り返る。

「やっと会えた。って何その格好!」

「うるさい。そっちこそ前開いてる。」

実結のブレザーについていたはずの2つのボタンはどちらともなくなっていた。

「後輩にあげたの。あたしのなんかが欲しいって言ってくれたから。」

実結は部活に入ってないのにそんな親しい後輩いたんだ。

「颯はやっぱりモテるね。美恵さんに怒られちゃうんじゃない?」

下を向いて髪の毛を弄びながら言った。

この反応、もしかして…

「妬いてる?」

冗談で言ってみた。

「…うん。」

妬いてないよ!とか言うかと思ったからその言葉はずるい。

やけに素直でこっちが動揺する。

「もうボタンないよね…」

俺のブレザーを見ながらつぶやいた。

俺は無言で実結の手の中にボタンを押しこむ。

「えっ、なんで!?」

驚いたように俺を見上げる。

第二ボタンがどんなに大事で特別なものなのかなんて知らないし、どうしてそんなにもほしがるのかだってわかんねえ。
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