君のとなりで
「実結、話がある。」

帰ろうと立ち上がった実結の手を引き止めた。

「…え…?やだ!」

「は?」

返ってきた意外な反応に思わず間抜けな声が出てしまった。

なんで拒絶?

「だって…ここで大事な話といえばあの時のことしか浮かばないんだもん…高三のときの…」

ああ、そういえば高三の夏休み、花火大会の後で実結に別れ話をしたんだっけ。

怯えたような目で見て来る実結の頭をぽんと撫でた。

「違うから。聞いて?」

小さい子を諭すように言うと、こくんと頷く。

いつまでたっても時々子供みたいな表情を見せる実結。

そんな実結に、俺はかなわない。

つうか、なんて言おう。

言葉とかなんにも考えてなかった。

だけどまどろっこしいことも、飾った言葉も俺には言えない。

だったらもう、腹をくくって、ストレートに。

「実結、…結婚してください。」

よし、言った。

けど、恥ずかしくて顔見れない。

なんとか顔そらす方法…

そうだ、指輪…

ポケットを弄っていると急にどんと実結が突進してきた。

そして背中に腕を回して、ぎゅっと強く抱きついてくる。

「…颯、あたしでいいのですか?」

なんで敬語?
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