君のとなりで
実結は顔を埋めたままあげない。

鼻を啜る音がするから、多分泣いてる。

俺はまたそのやわらかい髪に手を伸ばした。

「あたし、料理下手だよ?」

「知ってる。」

「子供っぽいし…」

「知ってる。」

子供っぽくても、料理下手でも、そんなの全部ひっくるめて、俺は…

「実結でいいんじゃなくて、実結がいい。」

実結じゃないと、嫌なんだ。

良い所も悪いところも全部実結だから。

「ありがとう…あたし、颯のお嫁さんになりたい!」

やっと顔を上げた実結の目は、やっぱり潤んでいて。

その細い指に銀色のリングをはめてやると、嬉しそうに微笑んだ。



あれから六ヶ月。

その六ヶ月間は怒涛の日々。

仕事が終われば打ち合わせやら衣装合わせやらで毎日忙しい。

そしてなんとか、この日を迎えた。

「ついに隼人に二人共娘をとられた…」

そう言って冗談ぽく笑うのは廉さん。

挨拶に行ったとき、そんなふうに言ってたけど今日の朝、俺の肩をたたいてこう言った。

「颯、実結を頼むな。」

小さい頃からまるで本当の息子みたいに俺をかわいがってくれた。

だからこそ、絶対に実結を大切にしたい。
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