だから、無防備な君に恋に落ちた


『…そうだ、来週、確か北辰あったよね?』


沈黙を破ったのは、絵美ちゃん。



さすが、大人。


だって、俺には今のこの空気を変えるの無理だった。




『あ…うん』



『この一ヶ月の努力が実ればいいね』


絵美ちゃんはそう言って、いつものように微笑んだ。




『…うん』



その絵美ちゃんの一つ一つの言葉が、行動が、どうしても俺と絵美ちゃんは子供と大人、そう言われてるみたいで。


でも、絵美ちゃんに空気を変えてもらう他、俺にはなんも出来なくて。



早く、大人になりたい。


そう、願ってしまう。




『…自信ない?』


絵美ちゃんは俺の忠告通り、近距離はやめて、俺に問いかける。




『…そんなことないよ、絵美ちゃ…絵美先生が教えてくれてるし…』



『…あ…』



絵美ちゃんは、俺の言い直しに気付いて、俺の顔を見つめる。




『とりあえず、頑張るわ』


俺はそう言って、参考書を開いて、勉強にとりかかった。





『…航汰くん、今度の北辰の結果が良かったら、何かご褒美あげるよ』



『…ご褒美?』



『あ…えっと、キスとかはダメだけど…う~ん…アイスとかくらいなら買ってあげるよ?』



アイスって…

時期のものだけど、さ…



んな、子供だましが中学生の野郎に通用するわけ…





『あのね、この間、航汰くんの家にくる道で、美味しそうなカフェを見つけてね?
 そこで提供してるアイスが美味しそうでね?』



………ガキ…。


絵美ちゃんはすっごくそこのアイスが食べたいみたいで。



『それ、俺のご褒美じゃなくて、絵美ちゃんのご褒美じゃん!』



『…え?…あ!今、また“絵美ちゃん”って言ったー!』


そう言って、頬を膨らます絵美ちゃん。




だーかーら、そういう顔が可愛くてたまんないの!


本当に、こんな無防備な女、絵美ちゃんの他にいないわ。





『いいじゃん、“絵美ちゃん”で♪』



『もう、いいやー。
 その代わり、絶対に北辰の結果、良くしてよ?
 あれ、今月末で終わっちゃうみたいだから』


そう言って、何かを諦めた顔からすぐに顔が変わる。




『…はいはい』



俺の好きな人は、とんでもない人、だな。






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