だから、無防備な君に恋に落ちた







『…航汰くん。
 私、前にも言ったよね…?
 ちゃんと好きな人がいるって…』



絵美ちゃんがとても困った顔をしながら言うから、冗談で返す、わけにもいかなくて。





『だから?』


俺はやっとの思いで聞き返す。




『あんまり私に優しくしないでほしいの…』




『なんで?』



『…だって…私は……だって女の子は優しい言葉とか、優しくされたら……その……気持ちが揺れる時だってあるじゃない……?』




え、なに、その感じ…?



俺、また釘を刺されるのかと思ってたんだけど?


絵美ちゃん、そういうこと、狙われてる立場なんだからさ、言っちゃうと…





『揺れれば?
 俺的にはラッキーな話だけど、ダメなの?』



だって、そうじゃん。


絵美ちゃんの想ってる人より、俺の存在の方が絵美ちゃんの中で大きくなってるなら、それはそれで俺は嬉しいけど?




『…あんまり直球で返さないで』


絵美ちゃんはそう言って、また俯いてしまった。


さっきより、もっと俯くから、俺はその姿に胸が高鳴る。


少しでもいいよ。

少しずつでいいから。



俺のこと、好きになってよ?






『……それに、私には好きな人がいるから』




『じゃ、絵美ちゃんに聞くけど?
 まだ彼氏とかってわけじゃないんでしょう?』


俺の言葉に絵美ちゃんは顔を上げ、


『…うん』


そう、答えた。



『だったら、なんの問題があんの?』



『…え…?』



『人間だよ?
 気持ちが変わる時だってあるでしょ、普通に』



でも、絵美ちゃんは横を向いてしまう。



…絵美ちゃんの中に、そういうことはないってか。




『でも……急に変わったら…なんか、その時までの自分に“なんで?”って思われるっていうか…なんかいけないっていうか…』



もう、この子は純粋すぎ。


俺は左手で前髪をいじる絵美ちゃんの手を掴んで、引いて、そしてキスをした。




『絵美ちゃんが純粋ってのは分かった。
 けど、俺のことを好きになりなよ?』


唇を離した瞬間、時が止まったように固まる絵美ちゃんに、俺はそれだけ言った。






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