だから、無防備な君に恋に落ちた
『絵美ちゃんさ、優しさのつもり?』
『…え…?』
俺の問いかけに絵美ちゃんは首を傾げる。
『俺が絵美ちゃんを好きだから?
可哀想とか同情してくれてんの?』
『…ちが…私は』
『そういうの優しさって言わないから』
絵美ちゃんは黙って俺の顔を見つめる。
『絵美ちゃんさ、俺の気持ち知ってて、なんで来んの?
絵美ちゃんは優しさのつもりかもしれないけどさ…
そういうのって残酷じゃない?』
『…残酷…?』
『だって、こうやって追いかけてきたって、頭の中はあの人のことでしょ?
あの人が絵美ちゃんの好きな奴で、それなのに絵美ちゃんが追いかけてきたら、俺は勘違いすんだよ…ただの勘違い野郎になんだよ、俺は!』
自分でも分かった。
このどうしようもない苦しい想いに、絵美ちゃんの涙を見たときの敗北感に、俺じゃない奴を想う絵美ちゃんの心に、どうしようもないほど、嫉妬して、ムカついて、そんでそんな自分が惨めで。
その思いをただ、絵美ちゃんにぶつけてるだけで。
『絵美ちゃんさ、優しさのつもりなら、優しさの意味を履き違えるなよ』
俺はそれだけ言って、何も言わない絵美ちゃんから腕を解放させ、絵美ちゃんをその場に残していく。
『絵美ちゃんはさ?
せっかくあの人に会えたんだから、あの人と楽しくお茶でもしなよ?』
そう言い残して、ただ一人歩く。
絵美ちゃんが追いかけてくる気配もなく、俺はひたすら歩いた。
振り返らないように。
“嘘だよ”って叫ばないように。