だから、無防備な君に恋に落ちた


たどり着いた部屋の前。


俺は静かにドアを開ける。



『はい、どうぞ』


俺の言葉に、絵美ちゃんはいつものように“お邪魔します”、そう言った。


部屋に入る絵美ちゃん、でもその足はすぐに止まった。




『………今月で終わりって…どういうこと?』


振り返らずに、絵美ちゃんはその場で静かに口を開いた。




『ん?あぁ、そういうこと』


俺はドアを静かに閉めて、絵美ちゃんの横を通り過ぎ、そのままベッドに腰掛けた。



『そういうことって…?』



『んーだからさ、今月でバイバイ?』


絵美ちゃんは俺に視線を向ける。




『…どうして?』




『どうして?あ、理由ね。
 理由なら言ったじゃん?
 俺、もう明蘭も合格安全圏に入ったし、あとは一人で』


『…私が航汰くんの想いに応えられない…そんなようなことを言ったから?』


いつもとは逆で、絵美ちゃんが俺の言葉を遮る。





『んー……まぁ、そうと言えばそう、かもね』


俺は笑って答える。


でも絵美ちゃんは笑ってなくて。




『あ、でも、あれよ?
 俺は、あの人と絵美ちゃんが上手くいけばいいかなって思ってるし、なんつーか、絵美ちゃんみたいに抜けてる子は、あんな人との方が合ってるかなって思ってるし?』



それどころか、俺の言葉に耳を傾けてるだけで、その瞳からは何かが溢れそうで。




『はい、ストップ。
 うん…今、目にゴミが入ったーとか言って、涙流そうとすんのは禁止で』


俺は、防御線をはる。



『……私、あの人のことが好き……本当に好きなの…』



『俺にそんなことを言われても困るけどね?
 そういうことは本人に言わなきゃダメじゃん?』


てか、もう、俺も限界だし。


絵美ちゃんに今まで“好きな人がいる”って、“好きな人がいるから無理”って、何回か言われたけど。


今の告白が一番辛い気がする。


心がどこにあるかなんて分からないけど、とりあえず苦しい…




『…ちが……私……違くて……』


絵美ちゃんはそう言いながら、左手で前髪を掴み、俯いていく。





『よく分かんないや。
 でも、あの人ならそういう絵美ちゃんも受け入れてくれるって言うか、そんな感じがするしさ、とりあえず、あの人に告っちゃいなよ、な?』





『……………』



でも、絵美ちゃんの答えがなくて。




だから、余計に思ってしまう。



そんな風にしてるのは、俺のことを少しでも本気で好きになったから、とか。


ありえないことまで考えてしまう。


惨めになるのは分かってるし、でも、それでも考えたくなるんだ。






『…マジでさ、あの人のこと“好き”って言うならさ、あの人のところに今から行けば?』




でも、現実はあまりにも残酷で。

俺はこんなことしか言えなくなる。





『今、行かないなら、俺が行かせてやるよ!』




俺は立ち上がり、ただ黙って立ちすくむ絵美ちゃんの腕を引き、そのままベッドまで引き寄せる。





『……え……?』



絵美ちゃんがそう声を発したときは、絵美ちゃんが事態を把握したときは、もう俺は絵美ちゃんを押し倒して、その上に乗っていた。








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