だから、無防備な君に恋に落ちた
それからどの位の時間が経っただろう。
~♪~♪~♪~
ふと部屋の中で携帯の着信音が鳴り響いた。
自分の携帯を見るも自分の携帯が鳴ってるわけではなく、俺は絵美ちゃんの鞄の方に目をやる。
明らか鞄から鳴り響く着信に、俺は鞄の方に近づく。
代わりにでるべきか、否か…
でも彼氏彼女ってわけでもないのに、勝手に人の携帯に出るのも…
けど、こんなに長くかけてくるってことは緊急事態かもしれないし…
俺はベッドで眠る絵美ちゃんに“ごめん”とだけ言って、鞄から携帯を取り出す。
携帯はまだ鳴り響いていて、まるで早く電話に出ろ、そう言われてるようだった。
着信の相手を確認すると、“覚先輩”と表示されている。
覚(さとる)…
覚先輩…
“先輩”、あの時の…?
俺はもう一度絵美ちゃんを見つめる。
もし今出たら、また誤解が生じるかもしれない…
でも……
絵美ちゃん、ごめん。
心の中で絵美ちゃんに謝罪をして、俺は通話ボタンを押す。
『あ、もしもし、絵美?』
押した瞬間、相手は話し始めた。
『もしもし、絵美、お前今どこにいんの?』
…電話の相手の声は、やっぱりあの時に会った、あの人の声で。
俺は固まる。
『絵美?』
『…もしもし』
俺はやっとの思いで口を開く。
『…え…?』
相手は絵美ちゃんだと思っていただろうから、違う、しかも男の声に怪訝そうな声を出した。
『…えっと、この電話番号って絵美じゃ…』
『すいません、今、絵美さんと一緒にいる者です』
『え…、絵美は?』
『…今熱出してて、横になってるので、悪いと思ったんですが代わりに出ました』
『…あ、そう…絵美がご迷惑をおかけしてすみません。
あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
なんで?
親でもないくせに、なんで謝んの、この人が。
名前?
どうせ俺の名前を言っても知らないくせに。
名前なんか聞いて、この人が俺にお詫びをするつもりかよ?
『あ、すいません、絵美さん起きそうなんで』
俺はそれだけ言って、電話を切ろうとした。
でも、
『あ、一つだけ、絵美に伝言をお願いします。
絵美の誕生日に行く水族館の前売りチケット取れたって』
チケット?
絵美ちゃんの誕生日に行く水族館?
『…あ、分かりました、伝えておきます』
もしかして。
最後の言伝って、俺への牽制のつもりなの?
絵美と俺は付き合ってるから、的な?
俺は電話を切っても、心のモヤモヤが広がるばかりで、なんだかイライラしていた。