だから、無防備な君に恋に落ちた
突然のキス




『絵美ちゃーん、ここ分かりませーん』


俺は隣に座る絵美ちゃんに甘えた声で質問する。



『………』


でも、絵美ちゃんは俺のことを横から窺わしい目で見つめる。




『え、どうしたの?』


俺はその痛いくらいの視線を感じながら、絵美ちゃんに問いかける。





『“絵美先生”、でしょ?』


きつく睨みつけてるつもり、なんだと思う。


絵美ちゃんは睨みつけながら、そんなことを言うけど。



ごめん、全然怖くない。



童顔の奴が必死で怒った顔を見せても、全く効かない。




『“絵美ちゃん”』


俺の言葉に絵美ちゃんは口を大きく開き、そして頬を膨らませる。




『航汰くん、私はあなたの“先生”なんだからね?
 ちゃんと“絵美先生”って呼んでください!』



『ぷっ』


『何がおかしいのよ!』


絵美ちゃんは本当に怒ってる顔をしてるけど。


そういうの、俺的には逆にツボっていうの?


なんか絵美ちゃんのそういう姿も、そういう仕草も、可愛くて仕方ないんだよね。



他の女だってそういうことするけど。


俺、絵美ちゃんを見てて思うんだけど、好きな人だから、そういう姿も、仕草も、態度もそう思える、俺にとっては絵美ちゃんだけなんだよな…




『絵美ちゃんさ、“先生”って呼ばれたいの?』


俺がそう問いかけると、


『そりゃぁ…家庭教師とは言えども、先生は先生だもん』

絵美ちゃんは、そう答えた。




『ふーん』


『その“ふーん”って何?』


『絵美ちゃんがそんなに必死なら、“先生”って呼んであげてもいいよ?』



俺の言葉に、絵美ちゃんは嬉しそうな顔に変わる。



『本当?』

絵美ちゃんは目を輝かせて、俺に問いかける。




“先生”なんていくらでも言ってあげる。



でも、絵美ちゃん?



等価交換。




『絵美ちゃんがキスしてくれたら考えてあげる』



俺はそう言って、微笑んだ。


でも、絵美ちゃんはポカーンとした表情から、言葉の意味を理解したのか俺から離れる。




『あれ、そんなあからさまに離れなくてもいいんじゃない、絵美ちゃん?』



『…………』


言葉は何もない、でも、その目が俺に物語るものがあった。




『絵美ちゃんからは出来ないでしょ?
 だから、俺は“絵美ちゃん”って呼ぶよ?』



俺の言葉に絵美ちゃんは俯く。




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