兄貴がイケメンすぎる件
男の人はそう言うと、掴んでいるあたしの手首をぐっと引き寄せる。
その強い力に、動きたくないのに足が動いてしまう…。
「やだっ、やめっ…誰か…!」
あたしは消え入りそうな声で助けを呼びながら、でも周りに人はいるのに…不思議なくらい誰も助けてはくれないし、掴まれている手首も痛くなってきた。
それでも、ホテルには絶対に行きたくない。何がなんでも行きたくない。
そう思いながら、必死で掴まれている手首を離そうとしていると…
「おい、何してんだよ」
「!!」
その時…
突如すぐそばから、聞き慣れた声とともに目の前に誰かが割って入ってきた。
その誰かとは…いや、姿を見なくたってすぐにわかる。
翔太だ。
翔太はあたしに背中を向けた状態で目の前に割って入ると、その男の人の手首を掴んで、言った。
「このコ、僕の彼女なんだけど。そのキタナイ手で触らないでくれる?」
そう言うと、その手に力を入れて、痛みとともに強引にあたしの手首からその手を離す。
…そして一方、その翔太の背後で、あたしはまさかの翔太の登場に…ビックリしつつも、思わず自然と一瞬にして安堵する。
翔太の手首への攻撃に、男の人は自分のそれをおさえると、やがて逃げるようにすぐさまその場を後にした。
…たすかっ、た…?
その直後にあたしが思わず茫然としていると、そのうちに翔太があたしの方を振り向く。
顔を上げたら目の前の翔太と目が合って、少し気まずそうな様子の翔太があたしに言った。
「世奈ちゃん」
「?」
「…さっき、相沢さんからバイトのこと聞いたよ。今朝はごめん。世奈ちゃんのこと、浮気してるって散々疑って、信じることもしないで。今は凄い反省してる」
「…あ、あたしも…」
不安にさせて、ごめんね。
しかし、そう言ってすぐに謝ろうとしたら、それを翔太に遮られた。
「けどね、」
「?」
「結菜にバイトを紹介されて話に乗ったとはいえ、それが良いか悪いかくらい、世奈ちゃんだって考えたらすぐわかることでしょ」