兄貴がイケメンすぎる件
「…アイツ?」
“アイツ”という代名詞に、健が不思議そうな声を出した。
…これを言うと、健は怒っちゃうかな。
でも…
「…早月翔太は…」
「!」
「アイツはあたしをかばって停学になってるのに、あたしだけ楽しむなんて…出来ないよ、」
あたしはそう言うと、思わず泣きそうになるのを必死でこらえる。
するとそんなあたしに、健があたしの両肩を掴んで言った。
「だから、アイツは自分から停学になったんだろ?そんなの気にする必要ないじゃんか」
「ダメだよ!アイツはっ…早月翔太はあたしをかばってくれたの!
自分は全然悪くないのに、“僕が受けるよ”って。
それなのに、そうさせたあたしは今ここで何かを楽しむなんて、絶対出来ないよ!」
「!」
そして、あたしはいつのまにか零れ出ていた涙を拭いながら、最後に言う。
「だから…ごめん」
「…」
「いくら大好きなアーティストでも、会えない。
ごめんねっ…」
あたしはそう言うと、目の前の健とライブ会場を背に、走ってその場を後にした。
…楽しみにしていたはずの気持ちはすっかり消えて、あたしの心の中には今、アイツだけが浮かんでいる。
あたしはその心を感じると、帰る線とは違う電車に乗って、ライブ会場から離れた。