心も体も、寒いなら抱いてやる
「チャイムは1回鳴らしてくれればいいですから」

花蓮がドアを開けながら文句を言う。

「だって道が渋滞して予想外に時間かかっちゃったからやばいんすよ。焦ってんすよ。あいつひとりじゃ絶対に現場に来ないし」

スーツを着た若い男性がぺこっと頭を下げながら玄関に入ってきた。

「部屋にいるからどうぞ」

と、花蓮が言ったとたんに男性は靴を脱ぎ棄てて、「お邪魔しまーっす」と、家の中に入り、階段を1段飛ばしで身軽に駆け上がっていった。

「もう、せわしないんだから。で、なんだっけ? あ、私の秘密か。秘密なんてないと思うけど、どんな秘密? 」

「あのね、見ちゃったの。しつこいけど不可抗力で、あの、彼が牛乳を……」

と、またそこで「かれんさーん! ちょっと来てください!」と叫ぶ声が2階から聞こえて、再度話が中断する。
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