心も体も、寒いなら抱いてやる
「仕事という意識が一応あったら、モデルが出ていくのも気付かずにスタッフとちゃらちゃらしてねーだろ、ふつー」

地面に伏していたゾンビが急に甦ったかのような急な反撃にたじろぐ。

「あ、あれは……」

「バイトだからってさ、いい加減すぎない? 運転もできねー、こっちが仕事終わって出ていってもおしゃべりに夢中で気が付かねーって、そんなんならついててもらう意味ねーから付いてこなくていいよ」

かちん、ではなくガツンときた。確かにそうだ。仕事として何もできていないのは自分の方だ。

俊に文句を言うなんて勘違いも甚だしい。

恥ずかしくて反論も言い訳もできなかった。

「そんなこと言ってもみのりは急にマネージャーを頼まれて、今日が初めてなのよ。わからなくても仕方ないじゃない。ったく、あんたって狭量な男ね」と、いつのまにか後ろで様子をうかがっていた花蓮がかばってくれたが、悪いのは私だから――と、言う前に「いくら初めてでも、帰るのに気付かないって論外だろ……」と独り言のように言うと、俊は再び2人に背を向けて寝転んだ。

その背中に向かってみのりは「ごめんなさい!」と深々と頭をさげた。

「私、俊くんだから甘えがあったんだと思う。本当にごめんなさい。運転はすぐには上手にならないかもしれないけど、明日からもっとしっかり仕事するので、宜しくお願いします」

返事はない。

「もういいよ、行こう」と花蓮に腕を引かれて、階段を下りた。

< 77 / 209 >

この作品をシェア

pagetop