心も体も、寒いなら抱いてやる
みのりは少し逡巡した後、そのままを伝えることにした。

「わたし、今日新宿でお父さんを見かけたよ」

驚いて振り向いた母のその顔は「まさか」という驚きと、「やっぱり」というショック、そして多分、少し前から夫婦の間に何かしらの不安を抱えていたことを知られたことの「動揺」が混じっていた。

「そう」

あえて冷静を装った声のトーンに落胆がうかがえる。

「お母さんはお父さんが東京にいるって知ってたの? どうしてお父さんは家に帰ってこないの?」

今度は母が逡巡する番だった。

けど、それはみのりが要した時間の何倍も長かった。

「知らない。本当に大阪かと思っていた」

寂しそうに笑う母を見て、やっぱり言うべきじゃなかったかもしれない、と思った。

「ごめん……」

「なんであなたが謝るのよ。でも隠し事はできないってことね」

「お父さんとなんか会ったの?」

「ん? 別にないけど……」

言葉を探している。言いにくいことだということは、よくないことだということだ。
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