心も体も、寒いなら抱いてやる
近くに置いたスマホを取って、みのりはその場で父に電話した。

数回の呼び出し音の後に父が出た。

「もしもし」

いつもの優しい声。

スマホを耳に当てながら、笑顔を浮かべているであろう父の顔を思い浮かべた。

「お父さん、今日も帰ってこなかったね。大阪にいるの?」

かまをかけて父の答えを待った。

スマホの向こうから車の音や街並みの喧騒が聞こえてくる。

まだ新宿の街にいるのだろうか。

少し返事をためらった気配の後に、「ああ。大阪だよ」という返事が返ってきた。

うそを、ついた。
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