狂愛
どんな女の子から告白されても秀輝の心は全く動かされることはなかった。
舞香に構いたくて、舞香が秀輝に振り回されて秀輝の言うことは何でも聞いてくれる舞香が可愛くて仕方無い。
舞香も男から好まれる容姿をしているが、舞香は図太い。そしてかなり鈍かった。
そのため、秀輝はそれほど心配しなくても舞香が秀輝以上に親しい男ができることはなかった。
だが、高校受験の勉強を始める頃、秀輝の学力に舞香の学力は届いていなかった。
舞香は秀輝とは違う高校に行こうとしたが、秀輝は勿論許さず徹底的に舞香に勉強させた。
塾から帰っても日付が変わるまで勉強させるスパルタを続けたことで秀輝と同じ高校に舞香も合格した。
そして、高校でも相変わらずの秀輝は舞香にだけ構い、舞香に男が近寄ることのない状況を作った。
たまに現れる舞香を狙う男には牽制のように"王子様スマイル"を見せながら「舞香と仲良くしてくれてるみたいだね。ありがとう。さぁ、舞香一緒に帰ろうか。」と舞香の手を引きながら帰るのだった。
そして2人きりになると、秀輝は鬼の形相で舞香に詰め寄り自分の言うことだけを聞かせて独占欲を満たす。
高校生の秀輝は中学生では比べ物にならないくらいモテた。
だが、どの女の子の告白も"王子様スマイル"で上手くかわし、「佐々木(ササキ)さんと付き合ってるの?」と舞香のことを聞かれても「君には関係ないことだから。」とかわした。
そして、お互いがお互い以外の異性と親しくなることなく大学まで進んだ。
大学は再び秀輝のスパルタにより2人は同じ大学の同じ学部に合格した。
舞香は努力家であることを秀輝は知っていたし、ちょっとやそっとのことでへそを曲げるような性格ではない。秀輝にとって相変わらず図太く可愛らしい存在だった。
だが、大学ほど舞香を誘惑する恐ろしい場所はなかった。秀輝は舞香を手放さずにずっと側におき、秀輝の本性を知らない女達は、舞香が飲み会に行く度に迎えに来る秀輝を『本当の王子様みたい』と騒いだ。
舞香はお酒が強いため秀輝が心配するようなことを自分からはしないが、思いやりはある普通の優しい女である。
しかも、アーモンドの瞳が瞬きする度長い睫毛が揺れずっと見つめていたくなる愛らしさがあるのだ。
舞香と関わりを持ちたいと思う男が舞香を取り巻くが、秀輝がそれを根こそぎ蹴散らし舞香を連れ去る。
大学は実家から離れた所を選んだ為、二人は一人暮らしをしていた。
だが、秀輝は舞香の部屋に押しかける事が多くほとんど恋人のような生活を送っているように周りからは見えたが、秀輝が舞香に触れることはなかった。
舞香が秀輝を異性として意識していないことは秀輝も理解していた。
それでも、舞香を離すことはできない。
舞香は鈍いが、秀輝以外の男と2人きりになることはしなかったし、それに秀輝も満足していた。
そして、秀輝は決めていた。就職したら、舞香を自分のものにしようと。
舞香以外の女は昔から興味を持てなかった。
だから、これから先も舞香以外の女に心が揺らぐことはないと確信できたからだ。
就職が決まるとすぐに実家に戻り舞香と一緒に暮らすことを舞香の両親から許可をもらう。
そこからは、両親達の方が行動力があったためあっという間に部屋が決まり、舞香に決定事項を告げた。
舞香は珍しくオロオロしながら「一緒に暮らすって、本気なの?」と何度も秀輝に尋ねてきたが、本気に決まってるので「もう決まったことだから荷物まとめとけよ。」と言った。
もう少しも待ってなどいられなかった。
今まで長い間ずっと秀輝から逃げなかった舞香が悪い。
どんなことをしても結局秀輝を許してしまう舞香が悪い。
何を言ってもいうことを聞いてくれる舞香が悪い。
全て秀輝が舞香を求めてしまうのは舞香のせいだ。
舞香が秀輝を狂わせる。
引越したその日に舞香を抱きしめて、初めてその唇を味わった。
狂おしいほどの長年の想いを舞香にぶつける。
舞香は初めのうちは戸惑っていたが、最後は全て秀輝のものになってくれた。
それから秀輝は舞香を毎晩求めて、舞香もそれに応えてくれた。
2人暮らしの部屋は秀輝と舞香に1つづつ部屋があったが、舞香の部屋はほとんど使われることなく、秀輝の部屋で舞香は過ごすことがほとんどだった。
舞香を抱くようになってからは秀輝は舞香が他の男と楽しそうに話していることがとにかく許すことができなくなっていった。
毎晩抱いても舞香の心が自分にあるのか不安だった。
今まで舞香の気持ちを無視して自分の思い通りにしてきたことへの罰なのかもしれない。でも、秀輝は舞香を手放せない。
愛してるから舞香を思い通りにしたい。
他の男に目を向けることは許さない。
最近舞香と楽しそうに談笑している男がいる。
その男が許せない。
舞香とは会社は同じだが部署が違うため秀輝たちの関係を知る者は少ない。
そして、舞香の様子も最近おかしい。
秀輝には分かる。舞香の中で何かが変わろうとしている。
どうしてだ。
こんなに狂おしいほど舞香を愛してるのに。
それと同じくらい舞香が許せない。
舞香を支配しなければ自分を保っていられないほど、舞香を求めてる。
だが、舞香の気持ちを知りたかった。
舞香をこれ以上縛り付けてはいけない。
そんな気持ちをズルズルと知らないふりをして後回しにしてしまった結果、舞香と体を重ねるようになって5年が過ぎた。
今更秀輝から舞香が逃げたがることはないと信じたい。
秀輝が舞香を抱きしめると舞香も秀輝を抱きしめてくれる。
狂おしいほどに舞香と体を繋げて、揺さぶって、吐息を重ねれば『もっと。』と愛しいアーモンドの瞳は秀輝を見つめてくれる。
何度も何度も『秀くん』と舞香だけが呼ぶ秀輝の名前を呟きながら体を震わせ秀輝を離さない柔らかい体をとてもじゃないが離せる気がしない。
舞香は図太い。それが秀輝を不安にさせる。
舞香があの男を選んだら秀輝は自分が自分ではなくなる気がした。