僕と8人の王子
ちょうどその日は土砂降りの雨で、本校舎から寮までの距離にも傘が必要なくらいだった。
「日向、ちょっといいか」
話しかけてきたのは蓮だった。学校が終り、一人で寮に帰ろうとしていた僕を走って追いかけてきたのだ。
とりあえず、近くにあった今は使われていない教室に場所を移して、またしても流れる沈黙に僕は耐えきれなくなった。
「どうしたの?今日は一人なんだね」
「…あぁ。お前もな」
言われて気がついた。
この頃『spinner』のみんなは仕事で忙しく、一人で帰ることが多くなり、蓮ともなんとなく疎遠になっていたのでその流れで、みんなが戻った今でも一人で帰るようになっていた。
「そうだね、気づかなかった」
「…………、ごめん!」
どうして隠していたんだと怒られるだろうと思っていたから驚いた。
「…え?」
「お前、女なんだよな。…だいぶ驚いてるし、正直結構怒ってもいる。でも、お前が女だってわかった時点でまず謝らねーとって思ったんだ」
「あれは事故だったし…その、…大丈夫だよ。…それと、隠しててごめん。僕のこと軽蔑した?」
「別にそんなことねーけど。……理由、聞いていいか?」
それから僕は桜庭学園に入学した経緯とそれについて翡翠と竜も知っていることを話した。
「そう、だったのか。…よし!いろいろ思うところはあるが、とりあえず俺は日向に協力する!だから安心しろ」
「蓮…、ありがとう」
「おぅ!…つうか、翡翠と竜は日向が女だって知ってたのか。どうりであいつらあれから俺に冷たいわけだ」
「ふふっ、そうだったの?蓮も大変だね」
ほっとして込み上げた笑いに、つられて蓮も笑い出した。
ちょうどその時、僕達の笑い声が届いたみたいに土砂降りだった雨が止んで、空には大きくて綺麗な虹がかかった。