僕と8人の王子
息を切らしながら教室に入ってきたのは翡翠と晴斗だった。
「ひな!無事でよかっ……?」
「あー!あの時ひなたにぶつかって行った3年生の人!!何でここにいるの?」
「ん?ぶつかった?ひなたに?俺が?……もしかしてあの時か!部活のことでいっぱいいっぱいで視野が狭まっていたみたいだ…。ひなた、すまない!怪我はしなかったか?!俺はなんということを…。なら誰かがひなたを押し倒したという噂は俺が原因か?そうか!あの噂は嘘なのか!」
「でも、その拍子に倒れたひなたのむ…」
咄嗟に晴斗の口を蓮が塞いだ。
「ん?ひなたがどうした?」
「そ、それよりも!日向、本当に釣り部に入るのか?」
はぐらかそうとした蓮が脱線しかけた話を戻した。
「あ、、うん。心配はかけたくないけど、お兄ちゃんの部活を廃部にするのは嫌だからね」
「でも、夏目さんも仕事忙しいだろうし、1人で活動なんて出来ないんじゃねぇか?」
『1人』……大丈夫、僕は
「僕が入らないと廃部になっちゃうかもしれないんだよ?今度は僕がお兄ちゃんの為に何かしないと!」
「…そうか、しゃあねぇな。俺もできるだけ顔出せるようにするわ」
「え?…蓮も入るの?」
「何言ってんだよ。当たり前だろ?」
「でも!」
これ以上甘えるわけには…
「遠慮すんなって!」
そう言って微笑んだ蓮がとても心強くて、申し訳なさや嬉しさなんかで唐突に目の奥が熱くなった。
「お前は呼んでいないんだが?」
不服そうなお兄ちゃんも声色はどこか安堵を含んでいるような感じがした。
「あの、いい話のところ申し訳ありません。全くもって話についていけないのですが…。なぜ夏目陽さんがここにいらっしゃるのでしょうか?本校の在校生であることは存じ上げておりましたが、二人と顔見知りであったとは。一体いつお知り合いになったのやら。それから、''お兄ちゃん"とはどういうことでしょう?倉瀬"くん"とどのようなご関係で?二人が釣り部に入部するというのも初耳です。きちんとした説明は頂けるのですよね?もちろん、して頂きますが!」
初めて聞いた翡翠の敬語は、冷静なように見えてどこか怒りを纏っているような、とにかく背筋の凍るような悪寒がした。