僕と8人の王子

真っ黒な笑顔で状況説明を促す翡翠に一瞬その場が凍りついた。が、意外にもすぐに沈黙は破られた。


「ひなたは俺の可愛い従妹だ」

「なるほど…。晴斗、ひなが疲れてると思うから先に寮に戻っててもらえる?…蓮はまだ居てね」


死んだような顔をした蓮がこちらを見ていた気がしなくもないが、…僕は何も見なかった。


「はーい!ひなた、行こ!」


後ろ髪引かれる思いではあったが、こんなに可愛い生き物に手を引かれては断ることなどできまい!決して翡翠の笑顔が怖すぎて逃げたかった訳ではない。

寮に着くまで2分もかからない距離。特に何を話すでもなく、ただ手を引かれていた。


「やっと着いた!今日はなんか、疲れたな。ただい…」


目の前の扉を開けようとした瞬間、晴斗に握っていた手を引っ張られてしまった。


「はる…と?」


イタズラだと叱ろうとした僕の前に、真剣な顔をした晴斗がいた。


「好きだよ、ひなた。ずっと一緒にいる。ひなたが望むならなんだってしてあげる。だから、1人でいても平気だなんて思わないで。そんなの慣れてるって言わないんだよ!これからは僕がいる。寂しいなんて1ミリも思わないくらい離れないから!

ね、『1人』じゃないでしょ?」


上手く隠してるつもりだったけど、やはり気づかれていた。
こんなに心配してくれる人がいるのに、僕はわざわざ自分から1人になろうとしていたみたいだ。…馬鹿だな。

晴斗の優しさに込み上げてきたものがなかなか止まってくれなくて、寮に帰るまでに10分もかかってしまった。


やっと玄関をくぐれる状態になった僕に小悪魔のような笑顔で晴斗が爆弾を落としていった。


「僕に好きって言わせたんだから、それなりの覚悟はしておいてね。

ただいま〜!ひなた帰ってきたよ〜」

「え?」


好きって僕を励ますための言葉、だよね?


「え?」

覚悟って、え?

心臓の鼓動が加速する。ありえない程脳が回転して目が回りそうだ。


あの笑顔は反則だよ…

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