琥珀の記憶 雨の痛み
ふうっと短いため息を吐いて、空になった紙コップをテーブルに置く。

これからが混雑する時間帯だ。

2人制のチェッカーならば今の私でも少しは役に立てる。

時計を確認して、まだ少し早いけれどもう戻ろうと席を立った、その時。


「……だっせ」


聞こえた、背後からの、小さな呟き。

髪をユニフォームの帽子の中に押し込みながら通り過ぎていく男が、鼻で嗤ったのが聞こえた。


え、今。

嗤われたの、私?


反応も出来ずに見送ったその人影は、青果コーナーのアルバイトだ。

売り場ごとに違うユニフォームと、目立つ長身を丸めた背中で分かる。

仕事の後にたむろするメンバーの中に常にいるその人は、去年高校を中退したらしい、ひとつ年上の人。

未成年なのに当たり前のように慣れた仕草で煙草をふかす姿が、ちょっと苦手だ。


……なんで私、あの人に馬鹿にされなきゃいけないの!?


紙コップを握りつぶして腹立ちに任せゴミ箱に叩きつけたけど、全く気は治まらなかった。
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