琥珀の記憶 雨の痛み
「ちょ、莉緒、速い。こっち詰まってる」


入るようにと指示された3番レジに先に入っていたのはケイだった。

彼女のレジさばきは速くて、丁寧な接客よりスピードを求める客層はケイのレジを狙って並ぶらしい。

とは言えキャッシャー側はお客様が小銭に手間取ったりすれば時間がかかるもので、そんな状況にすら気付かずにどんどんカゴを流していたことに慌てた。


「あ、ごめん」

小声で謝って、ペースを落とす。

「何張り切ってんの」

ケイもお客様に届かない程度の声でそう言って、苦笑したのが気配で分かった。


速ければ速いほどお客様が満足するかと言えばそうではない。

チェッカーが済んだ後にキャッシャーで詰まれば、二度待たされることになる。

最終的にかかった時間が同じでも、満足度は下がるんだ。


いけない、いけない。

アイツの嘲笑に腹が立って、ちょっと周りを見失っていた。


「保冷用にあちらに氷がございますので、よろしければご利用くださいね」

敢えて時間をかけた方が良い時には、普段は聞かれた時だけ答えればいいような余計なことも言ってみる。

そんな、半分打算みたいなセリフなのに。

「あらぁ、そうなの。知らなかったわ、ありがとう」

にこっと嬉しそうな笑顔が返ってきて、自然とこっちの気持ちも和らいだ。
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