琥珀の記憶 雨の痛み
何日も何日も、雨が続いた。
梅雨だからと言って……たまには晴れ間があってもいいのに。


尚吾くんは、どちらを傘に入れるのだろう――それを見るのが怖くて、雨に濡れるユウくんに傘を差すのを口実に、帰りの時間をずらすようになった。


尚吾くんがお休みの日、たまにナツと2人で帰る。
ナツの口から聞かされる2人の仲が、少しずつ近づいているようで嫌だった。

けれどよくよく考えたら私よりもナツの方が付き合いは長いのだから、もしかしたら私がいなければ、2人はもっと早くにそうなっていたのかも知れなかった。


言うべきなのだ、諦めきれないくらいなら。
私も彼のことが好きなのだと、ナツに。


ある日ユウくんが言った、『いつまで俺を口実にするつもりだよ』と。
確かにそうだ、ユウくんにだって失礼だ。

ユウくんには明らかに私たちの不自然な関係性がばれていた。

だけど、根掘り葉掘り聞いてくることはない。
どころか関わりたくないとでも思っているのか、苦言も助言もなかった。


誰かに背中を押して欲しかった。
ナツが尚吾くんのことを好きだと知っていて、身を引くのではなく自分の気持ちを押し通すことは悪い事ではないのだと、誰かに言ってもらいたかった。

汚い、黒い、卑怯な――私が大嫌いな私を、全部知った上で『そうじゃない』って否定して欲しかった。


そんな、自分の都合があったから。
ケイの無断欠勤が続いてさすがに心配になっても、連絡を取るのが憚られた。

それを口実に話し始めて、途中で自分の話にすり替えて彼女に悩みを押し付ける――そんな打算的なことをしそうな自分が怖くて。


後悔が訪れるのは、いつも手遅れになった後だ。

冷たく叩くような雨が蒸し暑く重苦しいものに変わった頃、彼女がバイトを辞めることになったと。
――私はその事実を、ケイ本人からではなく、レジの社員さんの口から聞かされた。
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