琥珀の記憶 雨の痛み
「俺はこっち」

と。

ユウくんはいつものごとく、煙草の煙をくゆらせる。

こんなことをしている内に社員さんが次々出てくるけれど、未成年の彼が堂々と喫煙しているのを見ても何も言わないから不思議だ。

いつも「お疲れ」とみんなに向けて声だけかけて、当然のように通り過ぎていく。


「私もいいわ、男子に譲る」

ケイがそう言うなら、

「んじゃ、私もいいや」

そうすればアツシとタケが1個ずつ食べられる。

残りの1個をナツとメグで半分こ、ちょうどいい。

「太るもんねえ、莉緒」

人一倍美容を気にするケイがにっこりとそう笑って、私は瞬きだけで相槌を返した。


ふん、と、鼻で嗤ったような音が聞こえた。

嫌な予感と共に、恐る恐る視線を向ける。

ダルそうに壁に背中を預けて地べたに両足を投げ出したユウくんの、冷たい目がこっちを見据えていた。


――なん、で。

そんな目で見られないといけないの?


やっぱりこの人は、イライラする。

出来れば関わりたくないのに、どうしてこのグループにいるんだろう。


ユウくんは顎を上げて真上に向け煙を吐き出す。

細く開いた目から、舐め回すような視線がいつまでも絡みついてきた。
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