琥珀の記憶 雨の痛み
バイトの後、仕事のことでちょっと立ち話してたら、風に煽られて傘落としちゃって。
私が一瞬でずぶ濡れになったのを見て、通り道だからちょっと寄ってけって。

家の中までお邪魔したわけではなくて、外の車の中で待たされてて。
タオルとジャージを貸してくれて、そのまま車で送ってくれた。


――小さな嘘が、少しずつ混じった。

立ち話はちょっとじゃない。
話してたのは仕事のことじゃない。
傘を落としたのは、風が吹いたからじゃない。


余計なことは言わなきゃいいのに、突っ込まれても本当のことを言えない部分に無意識に予防線を張っていた。
わざとらしかったかもしれない。
だから嘘が下手だと、言われるのかも。


けど母が顔をしかめたのは、私の嘘に気が付いたせいではなかった。

「車……? 随分上の人なの?」

え、そこなの?


普通に考えて、大学生くらいでも車を持ってる人は持っているのだろう。
実際18歳のユウくんが車を所有していたくらいだ。

けど、うちに車がないせいだろうか。
母の中で、車を持っているイコール随分年上の人、というイメージなのは。


実際には歳の差はたったひとつだ。
けどそれは言えないから、曖昧に流した。

――それが、いけなかったのか。


「ちょっと。家にあげるくらい親密な仲でも、ちゃんと時間には帰してくれる節度ある人だと思ったから安心してたのに、まさか――……」
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