琥珀の記憶 雨の痛み
長かった梅雨はいつの間にか明けていた。
雨が降らなくなって久しい。

丘の上の高校は風通しは良いけれど、それでも陽射しを直に受ける南校舎の教室は、油断していると室内でも熱中症になりそうだった。


机の横にかけていたスクールバッグからペットボトルのスポーツドリンクを取り、ひと息入れた。

じっとしてても汗が滲んで、気が付くと水分を持って行かれてる。
ボーっとしはじめたら危険信号だ。


私の動きに気付いたのか、教壇の先生がちらりとこっちを見た。
正規の授業ではなく補講中だ、特に咎めるでもない。

先生の手にも普段の授業中にはない扇子があり、パタパタと仰ぎながら口にしたのはむしろお咎めとは逆の言葉だった。

「各自の判断で水分ちゃんと取れよー。倒れられたりしたら逆に面倒だからな」


やる気のなさそうな言葉に、何人かがこれまたやる気のなさそうなダレた返事を返した。

とは言え、ノートにペンを走らせる音は止まらない。

赤点で強制参加、とかではなく、希望者のみの無料補講だ。
どんなに暑くて気怠くても、みんな目的は見失ってない。


まだ大学受験も実感のない、高2の夏休み。
部活に入っている子たちはまだバリバリ現役。
それでも補講の参加者がクラスの半数近くいるのは、進学校ならではの光景だろうか。


去年はバスケ部の夏合宿の最中だった。
合宿と言ってもどこかへ行くわけでもなく1週間の学校泊まり込みで、だから、夏休みなのに補講のために登校している子たちがちらほらいるのは知っていたけど。

聞いた話では、去年の参加者は今年の半分くらいしかいなかったらしい。
高2から受験に向けてスタートを切った何人かが、確実にいるのだろう。
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