琥珀の記憶 雨の痛み
「莉緒、今度合コンする?」

「何ソレ、しなーい」

「だって浮いた話が……」

「はいはい、そうデスねー」


大分砕けた冗談にすり替えて、それでもまだ諦めきれない様子の亜樹を軽くいなしている内に、部室棟に向かう彼女との分岐点が来る。

亜樹は「その内ゆっくりね!」と意味深なことを言いながら、手を振って去って行った。


浮いた話、か。
バイト先の話をしたら、亜樹は満足するだろうか。

もしかしたら、親身になって相談に乗ってくれるのかもしれない。

ナツとは共通の友達で、それでいてバイト先の人間関係には直接関わり合いのない亜樹なら、話を聞いてもらうにはもってこいなのかもしれなかった。


けど、なんだか。

背中を押されても厳しいことを言われても、どっちにしても困るのが目に見えていて、誰かに話す気にもなれない。


「さてと。バイトバイト」

口に出さなければ、気持ちが切り替わらなかった。

与えられた仕事はきっちりとこなしたい。
邪念に囚われてヘマはしたくなかった。


外に出て、一歩日向に踏み出すと空気がぐっと変わる。
気温はもちろんだけど、ひりつくような陽射しのせいで体感ではより暑く感じた。

眩し……。


くらりと目眩に襲われながらも、駐輪場から自転車を引っ張り出した。
肩にかけていたスクールバッグはカゴに。
これだけでもブラウスに風の通りが良くなって、少し涼しく感じるから不思議だ。

長い坂を勢いよく下りていく内に、少し汗は引く。
坂の上の学校は、そういう意味ではありがたい。

汗と一緒に、乱れた気持ちも少しは落ち着いていく。
そしてお仕事モードに、お店に着く前には頭をすっかり切り替えなくてはいけない。
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