琥珀の記憶 雨の痛み
自転車が小さな段差を越える度、カゴの中のバッグに付いたチャームが跳ねた。

軽くて小さな、それでいて大きな意味を持つそれを、金具を付け替えて再びバッグに付けたことに気が付いて言ってきたのは2人だけだった。

他の誰も気が付かないのか、或いは気が付いてはいても、大した意味がないと思っているからわざわざ言ってこないだけか。


『また付けたんだ』
……2人とも、似たような言葉だった。


母はそれに気が付いた時、少し嬉しそうに見えた。

でも彼は――ユウくんは、凄く、驚いた顔をしていた。
それ以上他に、何も言ってくることはなかったけれど。


琥珀に込められた意味は、私が思っていたような重いものではなかった。
だから、なのか。
母がどこか嬉しそうにしていたのは。


けれど、あの日聞いた言葉が纏わりついて離れない。


『――戒め、よ』
『他人のモノに手を出しては、絶対ダメ』
『不幸になるのよ、あんたも周りも。その覚悟がないならやめなさい』


あの日私は、見出したはずの進むべき道を見失った。

ナツに話をするどころか。
みんなの前で、あの人を名前で呼ぶどころか。
――逃げて、ばかり。


琥珀を付け直したのは、母が口にした『覚悟』とやらの意味を本当に理解出来るまでの間の……いわば、『戒め』だった。


いわゆる樹脂の化石であるこの石は、いつかユウくんが言った通り、重たいものではない。
けれど母が石に託した本当の気持ちを知った今、以前とは違う意味で、この石は重さを増していた。
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