琥珀の記憶 雨の痛み
「あー莉緒さん! お疲れ様ですっ」

従業員用のエレベーターのドアが開くと、ちょうど休憩で地下の食品フロアから上がってきたところなのか、中から彩乃ちゃんが声をかけてきた。


「お疲れ、今からお昼?」

「はい。今日も午前中はのんびりで。空いてる内に回そうって、私が一番乗りです」


普段朝番でレジ開けを担当しているパートさんたちが、お子さんの夏休みに合わせてシフトを減らしている。
代わりに朝番の人員として午前中からのシフトが増えた彼女は、私がまだ教わっていない開店作業ももう覚えたらしかった。


バイトに入ってから、2か月足らず。
私よりも短期間でひとり立ちした彼女は、前よりもはきはきと喋るようになっていた。
最初の頃の物怖じしたようなおどおどした雰囲気は、ただの緊張と人見知りだったんだろう。


でも、何より彼女が変わったのは、言動よりも見た目だ。

長くて重たかった真っ黒な髪は、カラーリングとカットで明るく軽やかな印象に。
野暮ったかった分厚い眼鏡も、ヘアチェンジと同時期にコンタクトに変えていた。

ひょろりとした長身は前は自信なさそうに背を丸めていたけれど、心なしかイメチェン後はそれも堂々としていて、入りたての頃には気が付かなかったスタイルの良さが際立っていた。


そして――。


「莉緒さん、シフト入る前にご飯食べますよね? 社食の席取っておきますから来てくださいね。先輩ももうすぐ休憩だって言ってたから!」

「本当? ありがとう、着替えたらすぐ行くね」


……『先輩』。
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