琥珀の記憶 雨の痛み
エレベーターを降り、社食へ向かう彩乃ちゃんとはそこで別れ更衣室へ向かう。
秋の新作を大量入荷したばかりなのか、服飾フロアのハンガーラックが廊下の端に寄せられていて通路が狭かった。
夏は始まったばかりで今が盛りなのにクリアランスセールはもう先月終わっていて、今服飾フロアの店頭に並んでいるのは秋色・夏素材のいわゆる晩夏物がほとんどだ。
季節の移ろいが妙に儚く感じられて、なんとなく目に留まったワンピースの生地をそっと撫でた。
滑らかな光沢のある落ち着いたゴールドブラウンのそれは、しなやかに吸いついてくるようなシフォンベルベット。
指先に心地良い感触で、ずっと触れていたくなる。
シンプルで嫌味のないデザインだけど、波打つドレープがキラキラと光を反射して綺麗だった。
――けど、さすがに。
この時期、これを買いたいとは思わない。
……って言うか、こんな大人びた服きっと似合いもしないし、そもそも着ていく場所もないし。
思わず苦笑いが漏れて、さっさと更衣室へ向かおうと顔を上げた時、後ろから近付いてくる人の気配に気が付いた。
ただでさえ狭い通路を塞いでいたことに気付いて、端に避けようと振り返ると――、
「何あんた、また制服? そんなにひけらかしたいわけ、自分は富岡通ってますって」
……うわ、よりによってこのヒトか。
外から来たばかりなのかこめかみ辺りに汗を浮かべたその人、ユウくんの出現に、思わず顔をしかめそうになる。
けどそれに勝ったのは、驚きの方だった。
今まで彼の服装なんて、青果コーナーの制服と仕事終わりのラフな私服、それと中学の頃のバスケのジャージやユニフォームしか見たことがなかった。
――この人、なんでスーツ?
ジャケットはさすがに羽織ってないけど邪魔そうに小脇に抱えて、長袖のワイシャツは肘の上まで捲られてはいるけど。
ちゃんと、ネクタイまでして……一体その恰好は。
秋の新作を大量入荷したばかりなのか、服飾フロアのハンガーラックが廊下の端に寄せられていて通路が狭かった。
夏は始まったばかりで今が盛りなのにクリアランスセールはもう先月終わっていて、今服飾フロアの店頭に並んでいるのは秋色・夏素材のいわゆる晩夏物がほとんどだ。
季節の移ろいが妙に儚く感じられて、なんとなく目に留まったワンピースの生地をそっと撫でた。
滑らかな光沢のある落ち着いたゴールドブラウンのそれは、しなやかに吸いついてくるようなシフォンベルベット。
指先に心地良い感触で、ずっと触れていたくなる。
シンプルで嫌味のないデザインだけど、波打つドレープがキラキラと光を反射して綺麗だった。
――けど、さすがに。
この時期、これを買いたいとは思わない。
……って言うか、こんな大人びた服きっと似合いもしないし、そもそも着ていく場所もないし。
思わず苦笑いが漏れて、さっさと更衣室へ向かおうと顔を上げた時、後ろから近付いてくる人の気配に気が付いた。
ただでさえ狭い通路を塞いでいたことに気付いて、端に避けようと振り返ると――、
「何あんた、また制服? そんなにひけらかしたいわけ、自分は富岡通ってますって」
……うわ、よりによってこのヒトか。
外から来たばかりなのかこめかみ辺りに汗を浮かべたその人、ユウくんの出現に、思わず顔をしかめそうになる。
けどそれに勝ったのは、驚きの方だった。
今まで彼の服装なんて、青果コーナーの制服と仕事終わりのラフな私服、それと中学の頃のバスケのジャージやユニフォームしか見たことがなかった。
――この人、なんでスーツ?
ジャケットはさすがに羽織ってないけど邪魔そうに小脇に抱えて、長袖のワイシャツは肘の上まで捲られてはいるけど。
ちゃんと、ネクタイまでして……一体その恰好は。