琥珀の記憶 雨の痛み
分かってる。
諦めグセだ、私の悪い癖。


いくら頑張っても取れない100点満点を目指そうとする――そうしていないといつの間にか囚われていた自己否定、強迫観念。

母とたっぷり語り合ったあの日、それまでは気付けなかった愛情をしっかりと感じられたおかげで、その鎖からは解放された気がするけれど。

じゃあ、だから頑張るのを止めて、全部諦めて良いのかと言えば決してそういうわけではなく。


けどなんだかもう、頑張りどころが分からなくて。

取り敢えず目も当てられないくらいに落ちた成績をもう一回、せめて目を当てられる程度には浮上させよう、とか。
バイト先では徐々に築けつつある信頼を、なんとか確固たるものにしていきたい、とか。


そういうものに、恋愛を並べて持ちこんでも良いものかどうか……それを頑張ることが、自分の、周りのために正しい事なのかどうかが分からなくて。


誰かを傷付けるくらいなら。
誰かに嫌な思いをさせるくらいなら。

私が少し我慢すれば、黙っていれば、気持ちに蓋をすれば――、人間関係が、平和であり続けるのならばと。

そう思ってしまうことはそんなに悪い事だろうか。


逃げてるだけ、なのは、分かっている。
分かってるつもりだ。


けど、誰かのために諦めることは悪い事ではないはずだと――、そう思ってしまえば、心は凪いだから。

少しずつ開いていく距離に慣れて、ざわつく心の痛みも和らいで、このまま、その内いつかは……悩むこともなくなるんだ、きっと。


『覚悟がないならやめなさい』

母が言ったのは、そういうことなんだ、きっと。


着替えを終えてロッカーを少し乱暴に閉めると、パタパタと社員食堂へ急いだ。

気持ちが重い気がするのは、ちょっとした夏バテのせいだ。
ただの、夏バテだ。
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