琥珀の記憶 雨の痛み
冷やし中華のトレーを受け取って席に戻ると、さっきはいなかったユウくんが既に食事を始めていた。


「うわ、見ただけで胸やけしそう」

彼のカツカレーは、多分大盛りだ。
カレーには元々小鉢でサラダもついてるけどそれだけじゃ足りないのか、サイドメニューで唐揚げまで追加している。

小休憩や仕事後には煙草を吸うばかりで何かを食べてる姿なんて見たことのないユウくんは、その分なのか知らないが、昼食の摂取量がやたらと多い。


「っていうか、その席彩乃ちゃんが私のために取っておいてくれたんですけど。なんであんたが座ってるの」

「は? 知るか、チンタラしてっからだろ」


食べる手を止めずに面倒くさそうにそう言ったユウくんは、私が隣に腰を下ろすと同時に顔を上げた。


「良かったじゃねえか、結局そこに座れてんだから。ついさっきまで人いたぞソコ」

クッと口角が上がっていくのを見ながら、嫌な予感がした。
そして。


「俺が横取りした席の代わりに、優しーい『尚吾くん』がそっち確保してくれたんだろ」


わざとらしく一部分を強調して対面の2人にも聞こえる声で言ったユウくんを、無言で椅子の下で蹴っ飛ばした。

気まずくて、はす向かいが見れない。
代わりに正面を見たら、彩乃ちゃんがくすくす笑っていた。


「仲良いですよね、2人」


――あなたたちも、ね。
とは、もちろん言えなくて。


「どこが」

短く低い声でそう言うと、彩乃ちゃんを睨むワケにもいかないから隣のユウくんを睨みつけた。

ユウくんはもう興味もないみたいに凄い勢いで黙々とカレーをかきこみながら、会話に混じろうともしない。
だったら最初から1人で離れた席に座ればいいのに。


「食べなよ莉緒、時間なくなるよ」


声をかけられて、反射的に顔を上げた。
意図的になるべく目を合わせることを避けていたのに。


彼の――『タケ』の複雑そうな苦笑いの下にある感情は、私には、全く読めない。
返事の代わりに作り笑いを返す私の心の内も、きっと彼には、全く読めてないんだろう。
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