琥珀の記憶 雨の痛み
微妙な空気だった。
黙々とカレーを減らしていくユウくんが鳴らす食器の音がやけに響いてた。
タケの和定食は既に綺麗に片付いている。
彩乃ちゃんと交換した杏仁豆腐の器が、少しだけ浮いて見えた。
彩乃ちゃんがオレンジに噛みついて、果汁が少し飛んだ。
タケがそれを笑って、彩乃ちゃんは可愛い上目遣いで睨んだ。
無言の中でクスクス笑いあう2人が作り出す空気を邪魔するみたいに、ユウくんはカチャカチャと食器を鳴らした。
黙って箸を動かしながら、なんだかんだ腹の立つことも多いけど、やっぱりユウくんが同席してくれて良かったとこっそり思っていた。
沈黙を破ったのはその席にいた誰かではなく、後ろから近寄ってきた人だった。
「名倉くん、お疲れ様」と。
ユウくん名指しで声をかけてきたその人に、全員が顔を上げ、慌てて「お疲れ様です」と挨拶をする。
食品フロアの統括マネージャー、三橋さんだった。
食事のトレーを持っているわけでも席を探している風でもない三橋さんが、どうやら昼休憩でここに来たわけではないらしいことはすぐに分かった。
ユウくんに直接声をかけに来たのだ、彼女の用件はすぐにピンと来た。
「来たよ本社から、連絡」
彼女はそれだけ言うとにこりと微笑んで、ユウくんの右肩辺りをぽんと叩く。
「来月から。よろしくね」
機嫌良さげにそれだけ言ってすぐに去って行った三橋さんに対して、ユウくんは恐れ多くもカツを頬張った口をもごもごとさせたまま、「そっすか」「うぃ」と無礼な返事を返しただけだった。
「ちょっと……おめでとうって言うべきとこなのかも知れないけどさ、なんなのその不遜な態度っ!」
三橋さんはきっとわざわざ店内を探して、少しでも早くとユウくんに正社員試験合格の報せを持ってきてくれたに違いないのに。
喜ぶでもお礼を言うでもなく素っ気ない態度を取った傲慢さに呆れて、思わず出た説教だった。
黙々とカレーを減らしていくユウくんが鳴らす食器の音がやけに響いてた。
タケの和定食は既に綺麗に片付いている。
彩乃ちゃんと交換した杏仁豆腐の器が、少しだけ浮いて見えた。
彩乃ちゃんがオレンジに噛みついて、果汁が少し飛んだ。
タケがそれを笑って、彩乃ちゃんは可愛い上目遣いで睨んだ。
無言の中でクスクス笑いあう2人が作り出す空気を邪魔するみたいに、ユウくんはカチャカチャと食器を鳴らした。
黙って箸を動かしながら、なんだかんだ腹の立つことも多いけど、やっぱりユウくんが同席してくれて良かったとこっそり思っていた。
沈黙を破ったのはその席にいた誰かではなく、後ろから近寄ってきた人だった。
「名倉くん、お疲れ様」と。
ユウくん名指しで声をかけてきたその人に、全員が顔を上げ、慌てて「お疲れ様です」と挨拶をする。
食品フロアの統括マネージャー、三橋さんだった。
食事のトレーを持っているわけでも席を探している風でもない三橋さんが、どうやら昼休憩でここに来たわけではないらしいことはすぐに分かった。
ユウくんに直接声をかけに来たのだ、彼女の用件はすぐにピンと来た。
「来たよ本社から、連絡」
彼女はそれだけ言うとにこりと微笑んで、ユウくんの右肩辺りをぽんと叩く。
「来月から。よろしくね」
機嫌良さげにそれだけ言ってすぐに去って行った三橋さんに対して、ユウくんは恐れ多くもカツを頬張った口をもごもごとさせたまま、「そっすか」「うぃ」と無礼な返事を返しただけだった。
「ちょっと……おめでとうって言うべきとこなのかも知れないけどさ、なんなのその不遜な態度っ!」
三橋さんはきっとわざわざ店内を探して、少しでも早くとユウくんに正社員試験合格の報せを持ってきてくれたに違いないのに。
喜ぶでもお礼を言うでもなく素っ気ない態度を取った傲慢さに呆れて、思わず出た説教だった。