琥珀の記憶 雨の痛み
動いたのはケイだった。

ユウくんに向けて振り上げた右手の綺麗な指は、ピンと揃って張っていた。

あ、平手――。


「ちょ……っ」

「えっ!?」

なんでそうしたのか分からない。

ケイがユウくんを殴ろうとしたのを見たその瞬間、身体が勝手に動いて。

「莉緒ちゃん!」


ユウくんに飛びかかる勢いで近寄った私が、何か反撃に出るんだとみんな思ったんだろう。

面喰って目を見開いたユウくんの顔が、近くにあった。


なんだコイツ、ちょっとタレ目だ。

意外と可愛い目。

頬骨の上にふたつ並んでホクロがあったことにすら、今気が付いた。


そうか、私はこの人の顔をちゃんと見たことがなかったんだ。


「馬鹿に、しないで」


頭に血が上ってた。

自分の行動の意味など分かってない。


ただ悔しくて、ここにいることを否定されたのが。

仲間じゃない、と突き放されたことが。


馬乗りになって、彼の右手から吸いかけの煙草を奪って。


――これが吸えれば、いいわけ?


どっからそんな考えが生まれたのか分からない。

ただその一線を越えたら、認めてもらえるような気がした。
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