琥珀の記憶 雨の痛み
アツシはその時多分、私が辿り着いた結論を否定する何かを言いかけた。

遮ったのはメグだった。
ちょうどお店に着いたらしくて、「莉緒、ここだよ!」と。

タイミング的にはだから、別におかしくはなかった。

アツシの言葉に被せるように慌てて、少し大きめの声を出したような妙な不自然さを感じたのはほんの一瞬だ。


『その頃彼女が』――アツシの言葉で聞き取れたのは、それだけだった。


その頃彼女が『出来たから』?
なら、うん、納得がいく。

でもそれでユウくんが友達付き合い薄くなるとかは、ちょっと想像出来ないんだけど。
もしくは彼女に何かあったとか……うーん、分からない。


っていうかユウくん、彼女がいたのか。
見たこともないしそんな素振りも気配も感じたことなかったけど、そうなんだ。


別にそんな必死に隠さなくても、とも思ったけど。
何となく、ユウくんならば隠さなくてはいけないような秘密のお付き合いも想像出来てしまって。

私は笑いを噛み殺して、メグが慌てて隠したその『秘密』に、気付かなかったフリをした。


「ってか、この店……私、入れるの?」

メグが指したお店の看板を見上げて、一挙に不安になった私から出たのは乾いた引きつり笑い。

ヤシの木と見たことのあるアルコールのロゴが入ったネオンサインの看板に、最早書体を崩し過ぎて読めない店名が鮮やかな配色で輝いていた。


キラキラ眩しい。
――じゃなくて!
明らかに、確実に、お酒を出すためのお店じゃない!


「ここ、本当に高校生入れるの!?」

だからメグは、あんなに制服を着替えさせようとしたのか。
なら最初からそう言って欲しかった!


「莉緒ちゃん、ここは穴場っす」

と、妙に自信ありげに、アツシは得意気に笑った。

「ここの人気DJがね、高校生なの。だからか、高校生の出入りに寛大」

メグも種明かしをするみたいに、ペロッと舌を出す。


……DJって何!
いや、言葉の意味くらいは知ってるけど。
なかなかに日常生活では聞き慣れない単語に更に驚かされた。


「こういう店って言ったら莉緒ちゃん躊躇するかと思ってー、今まで隠してましたっ!」

……にこにこしながら「ねーっ」と仲良く手を取りあった2人に、もう言葉も出てこない。
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