琥珀の記憶 雨の痛み
高校のクラスメイトなのだと説明すると、彼が富岡の生徒だとは誰も知らなかったらしくてみんな驚いた。

「すごい、偶然!」

「えー、KaZと同じクラスなんて、超羨ましいー!」

元々彼のファンだったらしいメグとナツが、えらく興奮して歓声を上げた。


「てか莉緒ちゃん、なんですぐ気付かないの」

アツシの言うこともごもっともだ。

でも、逆光で顔なんてよく見えなかったんだもの!
こんな場所で知り合いに会うなんて思ってもなかったし!


「KaZって頭もイイの!?」

「あー、そうだね。私、夏休み中結構彼に数学教わってたかも」

むしろ、先生より嶋田くんに教わってた。
そう言うと、もう『ギャー』に近い奇声が上がる。


「莉緒、KaZと仲良いの!?」

「え、え、そうなのぉ莉緒? 紹介して!」


――ああ、思えば。
中学の頃から、この2人はミーハーだった。
『名倉祐仁』の件とか。

どうやら、『彼氏』や『好きな人』とは全く違う次元の話らしい。


男性陣――というか主にアツシが、ちょっと面白くなさそうに不貞腐れた顔をしている。
こっちは苦笑いだ。


でも、前に亜樹が言っていた、嶋田くんが学年問わず女子から人気があるという理由はこれで解明された。
こういう場所で脚光を浴びていたとは、そりゃ私は知らないはずだ。


……てことは、今日もこの店に、彼のファンの富岡生徒が押しかけているのかも知れない。

こういう店に制服で現れる間抜けは私だけだ。
薄暗い店内で私は学校の知り合いがいても気付かなそうだけど、こっちは目立ってるのかも。

やば、ちょっと恥ずかしいじゃん!


「いやいや。別にそんな特別仲良しってわけじゃ。補講の時に席が隣になったから、何となく手近で質問しやすかっただけで」

紹介なんか出来るような仲でもない、と暗に断ると、ナツとメグは今度は揃って不満気な声を上げた。
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