琥珀の記憶 雨の痛み
「タケ、久しぶりに勝負しようぜ」

と、ダーツを投げるジェスチャー付きで強引に話の方向を変えたのはアツシだ。

メグがKaZの話で盛り上がるのが面白くなかったのがバレバレで、誘われたタケの方は笑いを隠さなかった。


「私もやりたーい! みんなで行こうっ」

と、気付いてないのは本人ばかりか、メグは無邪気に目を輝かせている。

けど、みんなでって!


「私無理、ダーツなんかやったことないよ」

絶対恥かくだけだ!


チラリとダーツボードの方を窺えば、見るからに手練れそうな大学生くらいの男性グループが的を2つ占領していた。
ちょうど矢が真ん中に刺さって、高らかな電子音がBGMに混じってここまで聞こえてくる。

あの隣で失態さらすなんて、無理無理無理!!
下手したら的に掠りもしないんだから!


「莉緒、最初はみんな下手だから」

と、タケがクスクス笑った。

うう。
フォローはありがたいけど、やる前から下手クソだと決めつけられている。


「ナツもー、最初は矢が横向きに飛んでったよぉ」

「そうだよ莉緒ちゃん、何事も経験!」

「莉緒さん、私もやってみたいですー」


……なんてこと。
誰も味方がいないのか、全員がもうその気だ。


「だ、誰もここに残ってくれないの?」

「みんなで遊ぼうって言い出したの、誰だったっけ?」

メグのその微笑みがダメ押しだった。
最早、逃れようがない。


「……分かったぁ。やろう! 旅の恥はかき捨て!」


いや、良く考えたらそうでもないんじゃない?
学校の友達がどこかから見てるのかも知れないんだった。

完全八つ当たりだけど……DJ嶋田め!


ガタガタとみんなして席を立つ。

そのタイミングを狙い澄ましたようにBGMが変化して、「あいつ、こっち見てんなぁ」と嘆息しながらタケが呟いた。
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