琥珀の記憶 雨の痛み
「松本くん、このお店よく来るの? もしかして今日、亜樹も一緒? 私知らなかった、嶋田くんってすごいんだね。友達がファンみたいで、紹介しろってうるさくて――」


思いがけない場所で知り合いと出会って声をかけられて、私はちょっと興奮してたのかもしれない。

のん気に浮かれて捲し立てたのを、松本くんは妙に切羽詰まったみたいな真剣な顔で遮った。


「新田、なんで制服なの! 連れがいるみたいだったから静観してたけど、1人でウロウロすんなよ」

「へっ?」

「あぶねーから。ほら、これ」

「えっと。これは」


差し出されたものを広げて見れば、プルオーバーの半袖パーカーだった。

意味が分からずに首を傾げる。
さっきメグが私服を貸してくれようとしたみたいに、これに着替えろって言ってるんだろうか。


「嶋田が。俺DJブースの裏にいたんだ。これアイツの帰りの着替え用だったんだけど、着とけって。制服ほとんど隠れるから」

「え……制服、そんなにまずい?」


確かに他に制服の子なんかいなくて、ちょっと浮いてるかもとは思ったけど。

でも別に、高校生だからマズイ、という雰囲気ではないのは、客層と中の雰囲気を見てすぐに分かったし。なんで松本くんがそんなに焦ってるのか、嶋田くんがそこまでしてくれるのか……。


「まずいっていうか……いや、とにかくいいから着とけよ。嶋田の使いなんだよ俺」

「でも、嶋田くんの着替えなんでしょう。私服に見えたんだけど、アレDJ用のお店の制服か何かなの?」

「あー……私服だけど。ライトも当たるし、すげえ汗かくんだよあそこ。だからいつも帰りには着替えて……って、新田俺の話聞いてる?」


ええ、聞いてはいるけど。
帰りには着替えが必要なくらい汗かいてると聞いて、尚更その着替えを借りれるわけないじゃない。


「よく分かんないけど、すぐに友達と合流するし。ほら、あそこにみんないる。せっかく、心配? してくれたのに、なんかごめん。嶋田くんにもありがとって伝えて、私大丈夫だから」
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