琥珀の記憶 雨の痛み
輪の中心にいた彩乃ちゃんが、矢を持ったままタケの方へ振り返った。

きっと最後は彼に投げ方を確認したかったんだ。
そうやって素直にタケに甘えることが出来る彼女が、私はずっと羨ましかった。


彩乃ちゃんはタケの表情に気付いて、彼の視線を辿った。
吸い寄せられるみたいに彼女の目が動いて、すぐに私たちを捉えた。


「……え? ウソ」


彼女が真ん中にいたから。
だから彼女が声を発した途端に、周りにいた全員が私たちに気が付いた。


「ユウ! 来れたかっ」

嬉しそうに呼びかけたアツシは、多分まだ私たちの不自然な距離に気付いてない。

「莉緒、ユウくんと一緒だったんだ。遅いから迷子になったかと思った」

メグも。

2人は奥に立ってるから、多分見えてない。
私の腰を抱いたままのユウくんに。


「ちか」

戸惑ったようなナツの言葉は、意味を成す前に途中で消えた。

『近い』、と言いたかったんだろうか。
うん、近い。
近すぎて……なんでこんなことになっているのか、意味が分からない。


ナツは隣に立っていたタケの顔を見上げた。
なんで彼女が今そうしたのかは、よく分からなかった。


タケの顔は固まったままだった。

彩乃ちゃんも同じような顔で固まっていて、その時初めて私には、その2人が兄妹のように見えた。


彼女の手だけが動いた、無意識に縋るものを探すみたいに。
そしてその手はゆっくりと、斜め前にいたタケのTシャツの裾辺りを捉えた。


――やだ、触らないで。

反射的にそんな風に思った。
私に一体何の権利があって、と、すぐにそんなことを考えた自分を嗤いたくなった。

だって今私の腰を抱いてるのは、一体誰なのよ。


ユウくんの手に更に力が入って、強引に半歩、また彼の側へ引き寄せられた。
ワケが分からなくて、混乱して、泣きたくなった。


その瞬間、タケは彼の腰に縋っていた彩乃ちゃんの手を乱暴に払い落とした。
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