琥珀の記憶 雨の痛み
「莉緒。――何があった?」


タケが、動いた。
一歩前に出て、少し近づいた。

ユウくんに半分押されるようにして、躓きかけながら私も少し進んで。
距離が、つまる。


「え、何、どうしたの?」

後ろの方でアツシとメグが、漸く状況に気付いて慌てだした。


「アツシ、顔は出したからな。義理は果たした」

タケを飛び越えて、ユウくんが最初に声をかけたのはアツシだった。

「は? 今来たばっかだろお前、何言ってん……」

「連れて帰るから、こいつ」


ユウくんが何のつもりでそんなことを言っているのか、さっぱり分からない。
言われたアツシだって混乱気味だけど、パニックなのは私の方だ。

ユウくんが言った『こいつ』が指しているのは、間違いなく私のことだった。


「莉緒、なんで? 一緒にダーツするんじゃなかった?」

なんでって。
聞かれても、知らない。
私が聞きたい。

なんでユウくんがそんなこと言い出して、――なんでタケが、ユウくんじゃなくて私にそれを聞くのかを。


『黙ってろ』と言われたからじゃなくて。
分からないことが多すぎて、何を喋れば良いのか。


それでも何か声を発したくて、この状況は私の意思じゃないんだと伝えたくて。
口を開いたけれど、ヒュッと乾いた音が鳴っただけだった。

――声が、出ない。


「莉緒ぉ? ……『そう』、なの?」

ナツだった。
彼女がそんなに困った顔をする理由も、良く分からなかった。


『そう』っていうのはつまり、私がユウくんに連れて帰られるのかって意味だろうか。
私とユウくんが、『そういう』関係かって意味なんだろうか。


あれ、おかしいな。
ナツは私とユウくんを、くっつけたがってたんじゃなかったっけ。
そしたら。
『そう』見えるのなら、彼女は困った顔じゃなくて、嬉しそうな顔、するべきじゃない?
< 309 / 330 >

この作品をシェア

pagetop