琥珀の記憶 雨の痛み
「へえ。じゃ、教えたら満足すんの?」


ユウくんのその不敵な言い方に、ゾクリと鳥肌が立った。
『教える』って、何を。


全員が固唾をのんで続きを待っていた。
ううん、私は耳を塞ぎたかった。

彼がこれから何を言おうとしていても、聞きたくないし――、聞かれたく、ない。

良くないことが起こる予感が、ぷんぷんしていた。

「やめ……やめてよ」

漸く出た声は蚊の鳴く程度で、自分が情けなくて、怖くて、本当に涙が落ちた。


拘束が少し緩んだ気がした、のに、もう払う気力なんかなかった。
代わりにその腕は、今度は本当にふわりと抱きしめるみたいに優しくなったのに。

きっと、何かが壊れてしまう。
この腕が優しければ優しいほどに、きっと。

それが怖くて……けど、抗ったら何が起こるのかも、怖くて。
震える身体を支えているのが、なんでこの人なのか、分からなくて。

涙は、混乱に拍車をかけた。
ユウくんの言葉は、とっくに理解の範疇を超えていた。


「新田莉緒は俺のものになるから。俺は、こいつのことが好きだから。他の男にはもう送らせねえし、俺がいねえところで危ない目に合わせたら怒る。――当然だろ?」


――嘘、だ。絶対。嘘に決まってる。

でも。混乱、していた。
怖くて優しい腕の中で、ただただ、混乱していた。


「――そう、分かった」

俯いたタケの声は掠れていて。
アツシが後ろから、何か叫んでいた。


周りが見えなくなった。
『分かった』――その言葉だけが耳に残って。


終わりにしてやるってこういうことだったのか、と、私を支える腕を恨みがましく思った。

ユウくんが言ったことのどこまでが嘘でどれが本当でも。
今この腕が解かれたら、私はきっと、立っていられな――……


「でも、決めるのはユウじゃない」
< 313 / 330 >

この作品をシェア

pagetop