琥珀の記憶 雨の痛み
タケの言葉を、ユウくんは「はっ」と馬鹿にしたように笑い飛ばした。


「お前はだから、何なんだって聞いてんだよ。口出したかったら土俵に立てよ」

「莉緒がそう望むんなら俺だって口なんか出さない!」


タケが声を荒げた途端に、私の拘束は解かれた。
投げ出されてふらついた身体は、すぐに腕を掴み直されまた引き上げられる。

そのままぐるりと反転させられて、顎に指をかけて無理やり上を向かされ視線を合わされた。


「……だってよ? 話になんねえな。もう出るか、こんなとこ」

「や……」

「なんで? 家に来いよ、まだ時間あるんだろ」

「行かな」

「すぐ近くだ。知ってんだろ、一度来たことあるんだから」


「え」と誰かが声を漏らし、空気がざわりと揺れた。
その瞬間、今ユウくんはわざと語弊を生むような言い方をしたんだと理解した。


「なんで……やめてよ。なんで誤解されるようなことするの。なんで嘘ばっかり言うの?」

「誤解? 嘘? 誰がいつ言ったよ」

「全部よ、さっきから!」


絡まれてたとか、怯えて声が出ないとか。
私を好きだとか。
家に行ったとか。

すぐ終わるとか。
大丈夫だとか。


「全部全部、嘘ばっかりじゃない!」

突き飛ばすようにして距離を取った、はずだった。
掴まれた手首だけが、繋がったまんま、離れずに残っていた。


「嘘じゃねえよ。あんたが好きだから、俺が連れて帰るんだ」


――嘘だ。
それが一番、大きな嘘だ。

でも。
聞いたことない甘い声を出すから。
少しも目を逸らさないから。

分からなくなってしまう。


ぐらぐらと視界が揺れた。
自信がなくなる。

この人が私のことを好きなんじゃないかって、確かに誰かが言ってた。
誰が?
みんなが言ってた。

まさかって思ってた、あり得ないって。
本当にそうなの?


――もし、そうだとしたら……?
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