琥珀の記憶 雨の痛み
「放せよ。嫌がってる」


私の手首を捉えていたユウくんの腕を、タケの手がガシッと掴んでいた。
いつ移動したのか、いつの間にか真横に立っていて。

彼の声はちょうど耳元辺りで発せられた。
今までで、一番近くで聞いた。


誤解をしてるに違いないこの状況で、それでも私を庇ってくれる声を。


「嫌がってる? 随分都合良い解釈だな」

と、ユウくんはそれを一蹴した。

「俺にはそうは見えねえけど」


タケは『嫌がってる』って。
ユウくんは『そうは見えない』って。

勝手に私の気持ちを、決め付けて代弁する。

――私は。


「お前の出る幕じゃねえって言ってんだよ、まだ分かんねえのか」

「莉緒が嫌がるなら、俺は許さない」

「ハッ、どの立場から物言ってんのお前」


ひりついた空気が怖い。
でも、私の手首にかけられていたユウくんの力は既に抜けていた。

タケは彼の指を、ゆっくりと1本ずつ私から剥がしていく。
私が自分では振りほどけなかったそれは、驚くほど簡単に解けた。


私の手が自由になると、彼はユウくんが掴んでいたところをそっと擦りながら質問に答えた。


「お前と同じ立場――、なんだろうな」


……今、何が起きたのか。
上手く回らない頭で、必死で考えていた。

彼がユウくんに返した言葉の意味を。
私は必死で、考えていた。
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