琥珀の記憶 雨の痛み
「同じなら、いらねえんだって。身重じゃんお前。必要な時には現れねえで、都合良く横からさらってく気かよ」

「それは……っ」

「誰にでも良い顔して。お前切れるか? お前にぶら下がってるヤツら」


ユウくんの言葉は揺るがない。
揺るがずに畳み掛ける。
答えられないタケを、見下したように嗤いながら。


でも、少なくともユウくんは確実にひとつ嘘を吐いてる。

私が絡まれてるところを助けに来なかった――そういう論点で責め立ててるけど、そんな事実はないのだから。

家に行ったのは限りなく嘘に近い真実なのかもしれない、好きだと言ったのは……今となっては、分からないけど。

確実にそれだけは嘘だ。


「待ってよ、私」

口を挟みかけた私の声は、

「私、大丈夫だもん!!」

――ずっと黙っていた彼女の声に、かき消された。


「タケいなくたって、大丈夫だもん! 荷物じゃない!」

……ナツ。
顔を真っ赤にして俯いて、両手を固く握りしめて。
一体、どんな気持ちでそんな言葉を。


胸が痛い。
この状況を作ったのはユウくんかもしれないけど、私が言わせたようなものだ。

タケに――好きな人に『いなくてもいい』なんて、心にもない、絶対聞かれたくない言葉のはずなのに。


「そうよ。ナツのことは私が守るんだから」

後に続いた力強いメグの言葉に、ユウくんは失笑した。

「何が出来んだよ。カモ増やすようなもんじゃねえか」

「分かってないわねユウくん」

辛辣な言葉に対しても、メグは怯まない。


「私がナツに付くってことは、もれなくアツシも付いてくるってことよ!」


彼女がそう言い放つと、まるで打ち合わせをしてあったみたいな呼吸でアツシが拳を掲げて見せた。
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