琥珀の記憶 雨の痛み
へえ、と感心したように呟いたユウくんは、今度は揶揄しなかった。


「良かったなタケ、1人減ったぞ」

矛先を戻して冷笑を浮かべたと思ったら刹那、

「ああ、でもソイツは心配ないか」

――顎でしゃくった先は、彩乃ちゃん。


「お前真っ先に振り払ったもんな、ソイツの手」


最早誰を傷付けるために発せられたのかも分からないその言葉に、一瞬空気が凍った。

私も、行動を指摘されたタケも、引き合いに出された彩乃ちゃんも。
ナツの時の様に即座に反応して助け舟を出せなかった周りも、困ったように黙りこむ。


「……私は別に、そういうつもりで先輩と仲良くしてきたつもり、ありませんから」

静かな声で沈黙を破ったのは、彩乃ちゃん本人だ。
ユウくんを真っ直ぐに睨みつける彼女の目には、抑えた痛みと怒りが滲んでいた。


「――これでやっと土俵に立てたんじゃねえ?」


もう他の誰でもなく、それはタケだけに向けられた言葉だった。
頬をぴくりと反応させただけで、タケは何も言わない。

言ったら傷つける人がいる。
彼は、人を傷つけるような言葉は絶対に言わない。


みんなを巻き込んでおきながらどんどん置き去りにして、ユウくんは淡々と話を進めてしまう。


今、何の話をしているの。
目まぐるしく変わる展開に頭が付いていかない。

私自身の問題ではなかったっけ。
置いていかないで。
勝手に決めないでよ。


「けどコイツは、俺を選ぶけどな」
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