琥珀の記憶 雨の痛み
『全部ウソ』
そのたった一言で一気に覆された今の状況は、だからと言って、単純に一件落着では済まされない。
なんでユウくんはわざわざみんなの前でこんな大掛かりなことをして見せたのか――、理由を考えれば、行き着くところは確かにあった。
なんて狡猾で、頭の回転が良いんだろう。
目的のためには誰かを傷付けることも恨みを買うことも全く厭わない彼は……怖い、けど。
当の本人は大声で文句をぶちまけるアツシの方へと歩み寄り、「お前思ってたより良い男だったな」とかヘラヘラしている。
こっちはもう完全に見向きもせずに。
それどころか、巻き添えにして傷付けただろうナツや彩乃ちゃんへのフォローもなしにだ。
――でも。
今私も、他人のこと考えてる余裕なんて全くなくて。
ポカンとしたまま立ち尽くして置き去りにされたもう1人、
「は……? え、全部? ――あ、」
彼をただ、見つめていた。
――『私が好きなのは』
緊張の糸が緩んだ途端に腰が抜けたみたいに力が入らなくなって、その場にしゃがみ込み――そうになったところを、
「莉緒!」
真っ先に気付いて支えてくれる人。
「莉緒、大丈夫? ……嘘ってどこから……絡まれて怖い思いは?」
首を横に振る私に、安堵したように微笑んでくれる人。
「――尚吾、くん」
ずっと閉じ込めていた、私だけの特別な呼び方。
はじめてみんなの前で口にした途端に、その人はくしゃくしゃに破顔した。
「莉緒。俺と。――付き合って」
「ッ!」
……返事をする前に抱きしめるのは、狡い。
彼の顔が、よく見れなかった。
彼の胸で私が頷いたのは、ちゃんと、伝わったんだろうか。
そのたった一言で一気に覆された今の状況は、だからと言って、単純に一件落着では済まされない。
なんでユウくんはわざわざみんなの前でこんな大掛かりなことをして見せたのか――、理由を考えれば、行き着くところは確かにあった。
なんて狡猾で、頭の回転が良いんだろう。
目的のためには誰かを傷付けることも恨みを買うことも全く厭わない彼は……怖い、けど。
当の本人は大声で文句をぶちまけるアツシの方へと歩み寄り、「お前思ってたより良い男だったな」とかヘラヘラしている。
こっちはもう完全に見向きもせずに。
それどころか、巻き添えにして傷付けただろうナツや彩乃ちゃんへのフォローもなしにだ。
――でも。
今私も、他人のこと考えてる余裕なんて全くなくて。
ポカンとしたまま立ち尽くして置き去りにされたもう1人、
「は……? え、全部? ――あ、」
彼をただ、見つめていた。
――『私が好きなのは』
緊張の糸が緩んだ途端に腰が抜けたみたいに力が入らなくなって、その場にしゃがみ込み――そうになったところを、
「莉緒!」
真っ先に気付いて支えてくれる人。
「莉緒、大丈夫? ……嘘ってどこから……絡まれて怖い思いは?」
首を横に振る私に、安堵したように微笑んでくれる人。
「――尚吾、くん」
ずっと閉じ込めていた、私だけの特別な呼び方。
はじめてみんなの前で口にした途端に、その人はくしゃくしゃに破顔した。
「莉緒。俺と。――付き合って」
「ッ!」
……返事をする前に抱きしめるのは、狡い。
彼の顔が、よく見れなかった。
彼の胸で私が頷いたのは、ちゃんと、伝わったんだろうか。