琥珀の記憶 雨の痛み
「……莉緒っ」

「ッ!」


聞こえたナツの声に、ハッとした。
私の身体が強張ったのに気付いたのか、尚吾くんの腕はすぐに緩んだ。


「ごめ、私、まだ……」

ナツに、ちゃんと話が出来てない。

そう言いかけた私の頬を、彼はそっと撫でた。
『分かってる』と、彼の気持ちがその時、伝わってきた。


「莉緒ぉ」

「ナツ、私――」


ごめん、と。
言いかけた私の胸に、彼女は真っ直ぐに飛び込んできた。


「ナ、ナツ!?」

「いいよ、いいの、そんなの後で聞くから!」

「え、ちょっと……」

「おめでとぉ、莉緒!」

「ナツ、なんで」


なんでナツが、そんな風に泣いてるのよ。
――嬉しそうにして、そんな風に。


「良かったよぉ、莉緒ぉ! もぉ、ほんっと怖かったんだからぁ!! あああん、ユウくんの馬鹿ああ!」

「ば……って、ナツ……ああもう、泣かないで、意味分からないから!」


大泣きし出したナツの姿を、一番愉快そうに笑いながら見ていたのはユウくんだった。
馬鹿とか言われたのに、全くそんな自覚もなさそうに。


あんだけの大芝居打って全員を巻き込んでおいて、1人だけ一連の状況を楽しんだその男は、いつものように上から言った。

「ワンカートン。忘れんなよ」

不敵に笑いながら。


「……さ、最低! 馬鹿! 最初に説明しといてよ! 私ホントに――」

「ホントに? 何? 俺がお前を好きだとでも?」

「――あんた、ほんっとムカつく!!」


成り行きを見守っていたらしいみんなが、漸くわっと騒ぎ立てた。

ユウくんはアツシに蹴っ飛ばされてたけど、自業自得だ、ざまあ見ろ。


私は――、私たちは、ちゃんと祝福を受けた。
いつか見た夢みたいに、みんなから、ちゃんと。
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