琥珀の記憶 雨の痛み
「すっかり騙されたなぁ、ユウには」


お店を出た後、2人で歩きながら。
初めての『彼氏』との距離感のくすぐったい戸惑いのせいか、何となく気まずかった無言の時間を、尚吾くんはそんな言葉で破った。


ユウくんには色々嘘吐かれたけど、尚吾くんが言ってるのは勿論アレのことだ。


「だから……ユウくんが私をなんて、絶対有り得ないって前から言ってたのに」

「でも信じた。っていうか、莉緒も引っかかってたよね?」


う、と、言葉に詰まる。
確かに一瞬、本気で『好きだ』と言われているような気がしてしまった。


「でもだって、あの人ずっと前から知ってたのよ。私が――、誰を好きだったのか。それで相談っていうか、たまに話聞いてもらってたから」

「へえ? おかしくない?」

「え、何が……」

「なんで俺より先にアイツが知ってんだよ。面白くない。先に俺に言ってよ」


手を、ずっと繋いだままだった。
お店にいる時にみんなにからかわれて、強制的に繋がされたまんま。


その手が突然、するりと離れた。


『面白くない』って……、機嫌損ねたから?

でも尚吾くんに言うって、イコール告白ってことで。
それが出来なかった理由だって、分かってくれてるはずなのに。


「あの、ごめ――」

「ねえ、言って」

「え?」


離れたと思った手が、繋ぎ直される。
交互に指を絡めた繋ぎ方には、さっきまでとは違う熱が籠っていた。


「莉緒は、ずっと前から『誰が』好きだったって?」


途端に顔が熱くなった。
2人っきりを、意識した。

みんながいて冷やかされてる時にはただ恥ずかしいだけで、嬉しくて楽しくてはしゃいでいたのに。

胸が、痛いくらいに鳴ってる。
蓋をし続けた想いが、膨れ上がって溢れ出てくる。


急かすように「ねえ」と、尚吾くんの真剣な顔が覗きこんで来た。
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